令和7年 全国の標高成果の改定について解説
令和7年4月1日、全国の標高成果が改定されます。この改定は、地震や地殻変動などの影響を受けた地域の標高データを最新のものに更新し、より正確な地形情報を提供することを目的としています。
標高成果は衛星測位などを基盤とする最新の値へ改定され、楕円体高とジオイド高から標高を算出できるようになります。
今回はこの改定についての詳細や普段の測量作業にどのような影響があるのかを解説していきます。
それぞれの「高さ」の違い
前提として、GNSSでの測量で使用される様々な種類の「高さ」について解説します。
楕円体高とは

楕円体高とは、地球の形を基準にした高さのことです。地球は完全な球ではなく、少しつぶれた「楕円形」をしているため、地球の平均的な形「楕円体」から今いる高さを「楕円体高」と呼びます。GNSSはこの「楕円体高」や「緯度・経度」の情報を衛星から受け取っています。
ジオイド高とは

ジオイドは、「もし地球全体が海だったらできる海面の形」のことです。 地球は完全な球ではなく、重力の影響で少しデコボコしています。そのため、海の水がある場所によって少し盛り上がったり、へこんだりします。この「海面の高さの平均的な形」をジオイドと呼びます。
また、楕円体からジオイド(平均海面)の高さのことをジオイド高と呼び、例えば山の上だと海面よりずっと高いですが、海の近くにいると、ジオイド高はほとんどゼロになります。
標高とは

標高とは、海の高さ(平均海面)を基準にした地表の高さのことです。つまり、「海の高さ(ジオイド高)から今いる位置の高さ」を示すものです。
私たちが知りたいのは「標高」

標高を測るとき、ジオイド高を使うことで「本当の高さ」を知ることができます。例えば、衛星を使って測ると、まず「楕円体高」という高さがわかります。でも、私たちが知りたいのは「海の高さを基準にした標高」なので、「楕円体高 - ジオイド高 = 標高」という計算を測量ソフトの中では自動で行っています。
ジオイド改定によりなぜ誤差が出るのか

ジオイドの更新によりジオイド高が変化することで計算に誤差が発生、同じ測点を計測しても高さが違うということが起こります。
また、RTK-GNSS測位では、電子基準点の補正情報を使用して位置を決定するため標高計算の基準が変化するとRTK測位で得られる高さ(楕円体高)も影響を受けます。
ジオイド改定について
現在水準点の標高はどのように計測しているの?

出典:国土地理院ウェブサイト(https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/suijun-genten.html)より引用
東京(千代田区)にある【日本水準原点】を基準にし、水準測量によって全国約1.7万点の水準点を設置しています。
しかし、現在の計測方法では課題点がある!

出典:国土地理院ウェブサイト (全国の標高成果の改定【予告】 | 国土地理院)PDFデータを元に株式会社亀太が作成
①全国の水準点を計測するには約10年以上かかり、その間に地震などの影響で標高がズレてしまう
②水準測量の特性上、東京(水準原点)から離れれば離れるほど誤差が大きくなってしまう
③計測には長い時間を要するため、いつの時期に計測された標高か不明確である
そこで、衛星測量を活用することでこの問題を解決できないだろうか!
ということで衛星を活用して作業時間の削減と誤差の減少を図るというのが今回の標高成果の改定の目的となります。
衛星測量には欠かせない、現在のジオイドの仕組み

出典:国土地理院ウェブサイト (全国の標高成果の改定【予告】 | 国土地理院)PDFデータを元に株式会社亀太が作成
現在は【重力ジオイド】と【実測ジオイド】を元にジオイドが計算されています(各計測法は省略)
しかし、【実測ジオイド】を測定するにあたり前述した【水準測量による誤差】が含まれてしまいます
水準測量の誤差が無い【重力ジオイド】だけを使いたい・・・

出典:国土地理院ウェブサイト (全国の標高成果の改定【予告】 | 国土地理院)PDFデータを元に株式会社亀太が作成
・航空機を飛行させ、航空重力データを取得※総飛行時間約1,316時間
・船上から重力データを計測
・衛星を使用して重力データを計測
ジオイド2024を作成
こうして作成しているものが水準測量による誤差が無いジオイドとなり、令和7年4月1日に正式版が公開され、それを元に令和7年度の水準点を計測、改定を行います。
ジオイド2024は令和6年3月27日に試行版を公開、令和7年4月1日に正式版を公開予定。
標高の改定にはどんなメリットがあるの?
①地震などの地殻変動で変化した現実と標高成果のズレをリセットする
②地震後、変化した標高成果を迅速に計測することができる(GNSS標高測量)
③以前の計測方法【水準測量】の誤差が解消され、より正しい標高が分かる
令和6年度から令和7年度に年度をまたぐ際の再計測は必要?
①新旧標高の確認: 事業で使用する標高が改定後の標高か改定前の標高かを明確にする。
②新標高と旧標高、どちらか一方に統一すること。
③新旧標高を変換するためのパラメータが国土地理院から提供される予定ですので、それを活用して標高を統一する。
④新たに基準点を設置する場合は、新標高を基にして測量を行う必要があります。
まとめ
・測量の際に使用している「標高」は「楕円体高 - ジオイド高 = 標高」で割り出される。
・ジオイド改定とは、標高をより正確に求めるために、衛星測位を基盤とした新しい標高体系へ移行する。